ガイドは森の達人のあの方!三重県大台町でシモジマ様のツアーを開催しました
「紀伊半島にある山々はすべてガイドフィールドです」こんな驚きのプロフィールを持つ方が、三重県大台町にいらっしゃいます。お名前は、森 正裕さん。一度聞いたら忘れない「森」の達人の「森」さんです。
10月21・22日、三重県大台町で「企業の森」に取り組まれている株式会社シモジマ様の現地ツアーを開催しました。現地をガイドいただいた方々のなかには森さんの姿も。森の達人とともに地域を巡った2日間の様子をご紹介します。
■苗木の実家をたずねて
はじめに訪れたのは、苗木を育てている場所です。大台町内の「シモジマの森」の施業を担っていただいている宮川森林組合が事務局を務め、地域住民が中心となって立ち上げた大台町苗木生産協議会の運営する苗畑を見学しました。「シモジマの森」にもここで育った苗木を植えているので、言ってみれば苗木たちの実家訪問。
ここでは広葉樹を中心とした130種類以上の「地域性苗木」を生産しています。地域性苗木とは、地域に自生する樹木の種子から育てた苗木のこと。
木を植えたくても苗木がなければ植えられない。苗木があっても、異なる遺伝子体系をもった他地域の樹木を植えてしまうと遺伝子が攪乱され地域の生態系が壊れる問題も起きかねない。そこで、宮川森林組合と大台町苗木生産協議会では地域に自生する樹木の種子を採取し、その種から苗木を育て、育った苗木を森へ還すという取り組みを長年続けられています。生産している樹種の種類の豊富さと苗木の数の多さにシモジマのみなさんも驚いていました。
▲種子の採取地、採種日、播種日、鉢上日などを記録し、生産履歴を管理しながら育てられています。
▲突然、森さんによるマジックがスタート。写真だとちょっと分かりづらいのですが、火をつけたたばこを葉っぱに押し当てると、あら不思議、葉の表面に黒いリングが現れました!これはモチノキ科の樹木の葉に見られる特性で、葉を火であぶると、熱せられた部分の周囲が黒変して環状の模様が浮かびあがるという不思議な現象。昔は吉凶の占いにも使われたとか。
■人と森の共生のかたち
続いて訪れたのは、森さんも所属する宮川森林組合の加工場です。宮川森林組合では広葉樹の利活用にも力を入れており、伐った樹木をいかに暮らしに取り入れるかという提案を木工品、燻製機、染色などさまざまかたちで行っています。今回はそのうちのひとつであるエッセンシャルオイルの精製工場を見学しました。
▲右端に写っているのが森さんです。20代・30代は、日本三大渓谷としても有名な「大杉谷」(おおすぎだに)の登山道にある山小屋「桃の木山の家」の支配人として多くの登山客を迎え、大杉谷山岳救助隊の隊長も務められていたそう。大杉谷~大台ケ原、熊野古道、紀伊半島の山すべてがガイディングフィールドという、まさに森の達人です。
この加工場では、香りのよい木として日本人に馴染み深いヒノキのほか、クロモジ、タムシバ、カナクギノキといった広葉樹からも天然成分100%のエッセンシャルオイル(精油)を抽出しています。もちろん原料となるのは地域に自生している木。ただし木を丸ごと伐るのではなく、枝葉を、「必要な分だけ」「のこぎりや剪定ばさみなどを使った手作業で」採取しています。
「手作業」で採るのは、チェーンソーなどの機械を使うとオイルが付いてしまったりして香りや品質に影響してしまうから。また、「必要な分だけ」採取すれば、季節の巡りとともにふたたび枝葉が伸びてきます。山全体の資源量も考慮して採取する枝葉の量を調整しながら、必要な分だけを森からいただく。そうして調達した原料から生まれたエッセンシャルオイルは循環する自然の営みを損なうことがなく、むしろ、「使うことが森づくりへの参加」につながります。
シモジマのみなさんも、実際に樹木ごとの香りの違いを感じたり、数種類をブレンドした香りを体験するなど、大台町の豊かな森の香りをたっぷりと味わっていました。
◎豆知識◎
エッセンシャルオイルと混同しやすい言葉にアロマオイルがあります。エッセンシャルオイル(精油)は、植物の枝葉・根茎・花・果実などから得られる、芳香をもつ揮発性のオイルのこと。100%植物由来の無添加のオイルです。一方、アロマオイルは香りのあるオイルの総称です。エッセンシャルオイル(精油)は植物由来の成分以外には何も含まれていませんが、アロマオイルは植物由来ではないフレグランスオイルも含んでいるので100%植物由来・無添加とは限りません。
■森で気づく違和感
2日目の舞台は森!でもその前に、はじめて森づくりを体験するシモジマの社員のみなさんもいらしたのでオリエンテーションを行いました。日本の森はどんな状況か、なぜ多様性のある森が必要なのか、どのように「シモジマの森」づくりを行うに至ったのか、など活動の背景にあることを共有しました。
▲電話かけよう大作戦!でmore treesを見つけてくださったシモジマさん。ありがたいご縁です。
基礎知識を得たところで、トレッキングに出かけました。訪れたのは町内にある標高704mの北総門山(きたそうもんざん)。この辺りの山々を知り尽くした森さんガイドのもと、1時間ほど歩きました。
道中、森さんからこんな質問が。
「この森を見てなにか違和感はないですか?」
木はたくさんあるし、光も射し込んでいて森のなかが暗いわけでもない。うーん、違和感ってなんだろう…?とキョロキョロするシモジマのみなさんを見て、森さんは「足元」に注意を向けます。よく見ると、地表あたりにはあまり植物が生えていません。これはシカに食べられて下草がほとんどない状態。残っているわずかな植物はシカの不嗜好性植物であることを教わり、言われてみれば、とハッとした様子のシモジマのみなさんでした。
またしばらくすると「この木はどんなふうに使われるでしょうか?」という話も。
これはシキミという樹木です。独特な香りを持つことから、山で亡くなられた方のご遺体の周りに枝葉を叩きつけ、死臭を消すために使われるそうです。ほかにも数メートル歩けば必ず森さんが何かを教えてくれるというくらい、森の達人ならではの豊富な知識に、参加者全員、目から鱗の連続でした。
山道を登ってすこし開けた場所に出ると、大台町の街並みや周囲の山々が見渡せました。気持ちよくトレッキングをしたあとは、いよいよ「シモジマの森」へ向かいます。
■適地適木を見極めて
こちらが「シモジマの森」です。2023年11月から「多様性のある森づくり」の取り組みがスタートし、約1年が経ちました。ふだんは森さんをはじめとした宮川森林組合のみなさんが施業を担われているのですが、施業する際に取り入れられているのが「自然配植技術」というもの。地形や地質、陽当たりなどの立地条件にあわせて生育に適する樹種を見定め、数十年から百年先の森の姿を想定しながら樹木の配置を判断していく方法です。
どこにどの樹種を植えるのがより自然に近いのか。自然配植技術を用いて計算し尽くされた高度な植林技術のお話に感動をおぼえつつ、苗木の植え方を森さんに教わります。
ここからはシモジマのみなさんの出番!森さんの手さばきを真似ながら1本1本丁寧に苗木を植えていきました。
最終的に22種類・90本の苗木を植えることができました。植樹を終えて「シモジマの森」の活動をはじめるきっかけを与えてくださった下島雅幸副社長もにっこり。
22種といえば、ツアーの途中、日本にはどんぐりが22種あるというお話を聞いて大変驚かれていた下島副社長。ツアーの最後にも「日本のどんぐりは22種もあるというのは忘れない」とおっしゃっていました。
「どんぐり」というのがただ一つの木の実を指すのではなく、形や大きさ、特性の異なるさまざまな実が含まれるように、「シモジマの森」がさまざまな樹木が育つ豊かな森になりますように。「22」という数字から森の多様性に思いを馳せたこの日は、10月22日でした。そして昨年の現地ツアーを振り返ると、11月22日という偶然も。では来年は…?とこれから続く物語も楽しみになりました。
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