森づくりの未来を拓く「すみたモデル」。岩手県住田町で視察研修を行いました①
10月16、17日の2日間、岩手県住田町で「多様性のある森づくり」の視察研修を行いました。2021年の初回は高知県梼原町で、その後、奈良県天川町、三重県大台町と毎回開催地を変え、今回で4度目。北海道から南は熊本まで、more treesの協定先地域で森づくりに取り組む31名のみなさんです。第一線で活躍されている方々だからこその知見や事例を共有しながら、地域を超えた交流を図った2日間の様子を2回にわけてフォトレポートでお届けします。
▲1日目はトークセッションを行いました。会場となったのは住田町役場の町民ホール。木の温もりあふれる木造庁舎は「森林・林業日本一の町」を目指す住田町のシンボルです。木構造部の7割強を町内の森から伐り出したスギやカラマツ材でまかなったという話には、ほかの地域の方からも驚きの声があがっていました。
▲自己紹介で場の雰囲気がすこしほぐれたあと、トークセッションがスタート。more treesスタッフの岸が「多様性のある森づくり」の基本情報や意義、最近の動きなどをお話しました。具体的な事例紹介として岸がピックアップした地域のひとつが、9月に連携協定を結んだばかりの富山県南砺市。林業と福祉が連携をして、苗木生産と障害者の雇用創出をつなぐあたらしい森づくりのモデルです。
▲続いて住田町林政課副主幹の石橋颯己さんより「住田町の森林・林業と広葉樹施業」についてお話をいただきました。平成16年度に、町有林の全域と私有林の一部でグループを結成してFSC森林認証を取得した住田町。環境、社会、経済の多様な面に配慮した森林施業を実施しています。more treesとの森づくりは2021年からはじまりました。
「町の分収林の伐採跡地においてmore trees様の寄附金を活用した広葉樹植栽を実施。大面積で確実な更新を図ることが望ましく、かつ針葉樹人工林の経営に不向きな箇所を選定することで、既存の針葉樹人工林施業との住み分けを図っています。」(石橋さん)
▲more trees宮﨑は、今回の視察研修のメインテーマともなる“すみたモデル”への熱い思いを語りました。住田町では、林業のプロフェッショナルとして森を育てる《気仙地方森林組合》、仮設住宅のコミュニティ支援をはじめさまざまな場面で人を結ぶ《一般社団法人邑サポート》、郷を想い住田町の自然の魅力や暮らしの知恵を多くの人に伝える《すみた森の案内人》、そして《住田町》が連携しながら広葉樹を植える森づくりを行っています。広葉樹施業については全国的にも技術が確立しておらず手探りな部分が多々あるなか、住田町は地域住民を巻き込んだ「地域性苗木の育苗」や「自然配植」という高度な植林にも取り組んでいます。なぜそんなことができるのか?広葉樹の森づくりを熟知したカリスマ的な人物がいるのか?宮﨑は「そうではない」と話します。
「別々のフィールドで長年取り組んできた事業や活動があるみなさんが、①『多様性のある森づくり』というひとつのテーマにそれぞれの強みを持ち寄って参加していること ②こんなことができたらいいね!とみなさんが面白がってアイディアを出していること ③それを町としてサポートする体制があること そうやってお互いの活動がつながりあうことで、より大きな取り組みになっていこうとしている。これが“すみたモデル”です。」(宮﨑)
▲「最後にもうひとつ」と宮﨑が付け加えたのは、“すみたモデル”の活用のお話。「地域の人々の強みやアイディアをつなげていくことで、森づくりの取り組みを一歩も二歩も進めていける可能性が“すみたモデル”にはあります。ほかの地域でもぜひこのモデルを活かしていただき、もし足りないものがあるのであれば、私たちと一緒に考えていきましょう!」(宮﨑)
▲⼀般社団法⼈⾢サポート代表理事の奈良朋彦さんからは、住民参加型の育苗プロジェクトについてお話をいただきました。木造仮設住宅への⽀援活動の経験を活かし、現在は住田町内外の人々をつなぎながら地域づくりの活動をされている⾢サポートさん。もともと森づくりのご経験はゼロでしたが、持ち前のコーディネート力を生かして地域の方々を巻き込んだ育苗プロジェクト「なえうぇる」を始動。秋の「種採り」イベント、春の「鉢上げ」イベント、苗木をご家庭で育てもらう「苗木ホームステイ」、専門家も招いてなえうぇるの参加者と情報交換を行うオンラインコミュニティ「なえうぇりゃー」の運営など、さまざまなアイディアで森づくりの輪を広げています。
「私たちは育苗プロジェクトを通じて、次のことを目指しています。①人と人のつながりを育てる ②森の価値を再確認する ③住田の森の遺伝子を後世に残す ④苗の地産地消で経済を回す」(奈良さん)
▲トークセッション後半は座談会を行いました。more trees 事務局長の水谷が進行をしながら、登壇者と参加者の双方に話を振って会場全体での交わし合いに。森づくりを進める上での成功事例だけではなく、困難や失敗、地域の担当者ならではの悩みなども交えて、率直な意見交換が行われました。
▲すみた森の案内人の吉田洋一さん(中)。子どもたちとの山での種採りやイタヤカエデの樹液を使ったメープルシロップやビール造りなど、森と人をつなげる取り組みを数多くされています。
「小さいころに種山で山ブドウを食べたときのあの味というのはいまでも忘れないんです。子どもたちも山でそういう経験をすれば大人になっても忘れないと思うんだよね。森へ行って五感で自然を感じながら種をとって、苗木にしてそれが山になれば、ずっと山は残っていくんじゃないかな。」(吉田さん)
▲1日目のトークセッション終了後、会場を移して懇親会を開きました。吉田さんからは自家製メールプシロップが振舞われ、参加者や地元の方々からのお酒の差し入れもたくさん。今年一気に4名増えて9名になったmore treesスタッフの紹介も行いました。最後は智頭町大字芦津財産区議会議長の綾木章太郎さんのメッセージ。針葉樹と広葉樹が入り混じる山の美しさに触れ、「多様性のある森づくり」への溢れる思いを語ってくださいました。
この後、宿泊先に移動してから2次会も開催。長い長い夜が続くのでした。
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