森づくりに、唯一の正解はありません。
森ごとの条件を踏まえ、多様な要素を組み合わせて森づくりの方法を考える必要があります。
ただ木を植えるだけでなく、継続的に「手入れをする」ことも大切です。下草刈りや間伐、枯れた苗木の植え替えなどの育林の作業も、森づくりの一環として行っています。こうした植林や育林を、more trees は「多様性のある森づくり」と呼んでいます。
多様性には、二つの軸があります。ひとつは、森を構成する樹種やそこに棲む動物たちなど生物多様性に配慮した森づくりであること。もうひとつは、森づくりへのアプローチの多様性です。森ごとに自然条件や気候風土、取り巻く社会状況や課題が異なります。その土地に暮らす人々とともに、どのように森づくりを進めるのか、方法を一緒に考え、実践のサポートをしています。
日本は国土の約7割が森林に覆われる森林大国です。森林には人が植えた「人工林」と自然の力で育った「天然林」があり、日本の森林のうち人工林は約4割、天然林は5割強です。
戦後、復興のために木材の需要が急増し、供給が不足していました。生産力を飛躍的に伸ばすこと、木材を大量に確保することを目指し国をあげて進められたのが拡大造林政策です。拡大造林とは「おもに広葉樹からなる天然林を伐採した跡地や、薪炭林などをスギやヒノキなどの針葉樹中心の人工林にかえる」こと。針葉樹が植林されたのは、比較的成長が早く、木材として利用しやすいと考えられたためです。また、広葉樹が伐採された背景には、燃料革命がありました。木炭や薪が中心だった家庭燃料が、電気やガス、石油へとシフトしたことで薪の材料として利用されていた広葉樹の価値が低下し、針葉樹中心の植林を後押しました。1950年代にはじまった拡大造林は、その後の15~20年間で約400万haを造林。これは現在の日本の人工林総面積約1,000万haの約4割にあたります。
こうしてこの100年間で人工林を中心に日本の森林面積は増加しました。しかし、生活スタイルの変化に伴い木材需要が低下し、林業が低迷したことで手入れが行き届かない人工林が増えています。また、人工林の面積の約7割がスギとヒノキの2つの樹種のみ。日本にはもともと主要な樹木が500種類以上あるといわれていますが、スギやヒノキに偏っている現状は、森林の多様性が失われているといえます。森林を構成する樹種が単一であることはさまざまなリスクにつながっています。
戦後に植林された人工林は、木材として利用可能な時期を迎えており、全国的に伐採が進んでいます。しかし、伐採後に再び木を植える再造林はあまり進んでいません。理由のひとつは、林業では収益が見込めない、植林費用を捻出できないといった経済面。また、所有者の森林管理に対する意欲の低下、所有者不明林の増加、人材不足などの理由で放置されたままになってしまう再造林放棄地が増えています。 林野庁によれば、皆伐地全体の面積に対して、再造林放棄地は6~7割ほど。未植栽の状態で放置することが土砂災害のなどの要因の一つになっているという指摘もあります。
私たちは、それぞれの地域、土地の状況や環境に応じてゾーニングや施業方法を選択することが重要だと考えています。林業に適した場所は引き続き単一樹種の人工林として育林する一方で、収穫期を迎え伐採された土地のうち木材生産に適さない土地や、今後手入れされる見込みがない森林を、単一樹種のみでなくさまざまな樹種を混在させた森林に更新していくことが必要です。more trees は国内での森づくりとして、植林や間伐を通じて、広葉樹はじめさまざまな樹種を織り交ぜた「混交林・広葉樹林」への転換に取り組んでいます。
世界では森がどんどん消失しています。1990年から2020年までの30年間で日本の面積の約5倍の森林が地球上から失われました。特に問題となっているのが、豊かな生物多様性を支える熱帯林の減少です。
熱帯林が地球の陸地に占める割合は7%に過ぎませんが、地球上の全生物種の半分以上が熱帯林に生息していると言われています。また、熱帯林は地球上の酸素の供給源でもあり、かつ地球温暖化の要因のひとつである二酸化炭素の吸収源としても重要な役割を果たしています。「生物多様性の宝庫」であり「地球の肺」でもある熱帯林の消失は多くの生物の生存を脅かし、私たち人間も例外ではありません。
熱帯林減少の大きな原因は、人間の経済活動です。木材の利用を目的とした商業伐採、パーム油生産などに使う農地(プランテーション)や牧草地への転換を目的とした開墾、そのために行われる野焼きが引き起こす森林火災、石炭をはじめとした資源採掘などにより、1秒間にテニスコート15面分もの森林が消失しています。こうした経済活動によって生産された商品は、海を越えて私たちの生活に深く浸透しています。
私たちは海外での森づくりとして、森林減少が著しい発展途上国において、主に植林とそのメンテナンス、また森林火災防止のための防火帯や貯水池などのインフラ整備も行っています。 植林においては、在来種と共に果樹も植えることで将来的に果物の収穫を目指すほか、地域の自然資本をベースとしたグリーンツーリズムを展開するなど、多面的なアプローチによって地域課題の解決を目指しています。