【コラム】注目が高まる「ネイチャー・ポジティブ」とは?
ネイチャー・ポジティブとは??
ネイチャー・ポジティブ(Nature Positive)とは、地球規模で生物多様性の毀損に歯止めをかけ、自然資本をむしろプラスに増やしていくことを意味します。
このネイチャー・ポジティブというコンセプトは2022年頃から関心が高まっています。
そもそも自然資本とは?
自然資本とは、森林、土壌、水、大気、生物資源など、自然によって形成される資本(ストック)のことを指します。※1
また、自然資本から生み出されるフローを生態系サービスとして捉えることができます。
つまり、私たちの暮らしを支える「自然の恵み」をもたらすのが自然資本というわけです。
こうした自然資本がもたらす生態系サービスに支えられた経済活動による価値創造は年間44兆米ドルと言われており、これは世界の総GDPの半分以上にあたります。※2
なぜネイチャー・ポジティブなのか
しかしながら、生物多様性は1970年から2016年の間に平均68%減少しており、陸地の75%は改変され、海洋の66%は累積的な影響下にあり、湿地の85%が消失したとされています。※3
自然資本が損なわれた要因には地球温暖化など気候変動による影響もありますが、より直接的に水資源や陸地・海洋などの生物多様性の維持に取り組むことも急務なのです。
農林水産業、食品、アパレル、電力・エネルギー、建設・不動産をはじめとする多くの産業は自然資本に大きく依存しており、自然資本が減少・劣化することは利益が減るだけでなく、新たに付加価値を生む機会を喪失することに繋がります。
一方で、もし自然環境にプラスの経済へ転換することができれば、2030年までに年間約10兆ドル規模の付加価値が生まれ、約4億人もの雇用創出効果の可能性があると言われています。※4
ネイチャー・ポジティブの流れを鮮明にしたのが、2021年10月に中国・昆明で開催された国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)第1部で発表された「昆明宣言」です。昆明宣言では、遅くても2030年までに生物多様性の損失を逆転させ回復させる内容が盛り込まれました。
さらに、2022年12月にカナダ・モントリオールで開催されたCOP15 第2部では、2030年までに陸域と海域の30%を保全する「30by30」が目標に盛り込まれました。
これは2010年のCOP10における「愛知目標」で設定された陸域17%、海域10%という目標から、大幅に上方修正された形です。
金融界もネイチャー・ポジティブを後押し
金融界は生物多様性をはじめとする自然資本の減少・劣化が気候変動と同様にリスクの連鎖を生み、金融の不安定化をもたらすとして危機感を募らせています。
こうした認識を背景に、2021年にTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が発足しました。TNFDは、2015年に発足したTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の自然資本版といえる枠組みで、森林や農地、海洋などへの依存度や影響を把握し、開示するとともに金融の資金の流れをネイチャー・ポジティブな方向に誘導することを狙いとしたスキームです。
なおTNFDは自然資本に関する情報開示フレームワークを策定中であり、2023年9月に最終版が公表される見込みです。民間企業も今後、自然資本への対応の強化や定量的・定性的な情報開示がより求められるようになっていくものと考えられます。
これからはカーボンニュートラルと並ぶ柱に
このように、気候変動のみならず自然資本の劣化・減少が私たちの暮らしを脅かし、経済活動にマイナスの影響をもたらすことへの危機感が世界的に高まっています。
いかなる業種であっても、気候変動対策や自然資本の重要性を無視した経済活動は立ち行かなくなることになります。
これからは、カーボンニュートラル(脱炭素)とともに、ネイチャー・ポジティブが世界的目標の大きな柱になってくるでしょう。
森林はCO2の吸収・固定をはじめ、生物多様性や水資源、土壌など多くの領域を網羅します。裏を返すと、森林が減少・劣化するとこれらの機能がすべて損なわれてしまいます。
地球レベルで森林面積が減少している中、ネイチャー・ポジティブの根幹を担う森林への関心はますます高まってくると思われます。
※1 環境省:「環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」(2014年)
※2 世界経済フォーラム:「Nature Risk Rising: Why the Crisis Engulfing Nature Matters for Business and the Economy」(2020年)
※3 IPBES:「生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書」(2019年)
※4 世界経済フォーラム「New Nature Economy Report 2020」
【参照サイト】
ネイチャー・ポジティブとは・意味
ネイチャー・ポジティブに脚光 生物多様性で投資選別
生物多様性条約第15回締約国会議第二部等の結果概要