ニュース

【コラム】森のポートフォリオ②

いま、戦後に植えたスギなどの針葉樹が収穫期を迎えていて、全国で間伐だけではなく皆伐も進んでいます。皆伐して一旦リセットされた土地を再造林する際には、何のためらいもなく再びスギが選ばれているのが一般的です。

でも果たしてそれでいいのか? 50年後もスギ、ヒノキでいいのか?

前回のブログでそんな話を取り上げました。

(前回の内容はコチラ

やっぱり、針葉樹だけでなく広葉樹も含めて多様な樹種があったほうが災害(台風や病害虫)にも強いし、落葉などによって豊かな土壌が形成されるし、経済面でも材価の変動に対応しやすいはず。

スギの並材は木材(素材)としてコモディティ化しているので、銘木でもない限り全国にライバルとなる産地があるわけです。その点、広葉樹は少量であってもライバルが少ないニッチな市場で高級材を狙える可能性が十分にあります。実際、北海道の広葉樹は最近アジアからも買い付けに来ています。しかもそれなりの価格で買い取っているようです。

ちなみに、今後スギはどうなのか?

必ずしも建築資材が今後も木材需要を支えていくとは限りません。

確かにCLT(Cross Laminated Timber)といった新しい建材が注目されつつありますが、ボクは正直言って懐疑的です。先ほど述べたように素材としてコモディティ化した状態で、さらに欧米のCLT価格と競争していくには、山主に利益が還元される仕組みが確保できるとは思えないのです。

今ある木をバンバン伐って使って木材自給率を上げるのは百歩譲ってよしとしましょう。けどその後のビジョン、特に樹種構成をどうしていくかについてはあまり議論されてないように思います。

そんなことを考えている中、知人の浜田久美子さんの著書に昨年出会いました。

スイス林業と日本の森林 近自然森づくり

本書の表紙にはこんなことが書かれています

氷河に削られた痩せた国土、急峻な山国のスイスで、豊かな林業が成立しているのはなぜか?
徹底して「自然」を学び、地域社会にとっての森林価値を最大限に上げる「近自然森づくり」を進めるべく、
一斉人工林から針広混交林へと移行したスイス林業(以下略)

歴史的には、スイスも日本と同様にドイツ式の単一の針葉樹人工林を造ってきたそうです。

しかし1980~90年代に頻発した大型のハリケーンによって大量の風倒木が生じ、病害虫などの二次被害も含めて単一樹種の危険性が浮き彫りになりました。

そうしたことから、環境面、経済面においてリスクヘッジするには、針広混交林が望ましいという考えに至ったんですね。

これ以上はネタバレになるので書きませんが、とにかく前述した、単一林に対するモヤモヤをクリアする上で大いなるヒントがここそこにキーワードとして散りばめられていました。

ボクは決してスイス式とかドイツ式とか、特定の手法を崇拝するつもりはありませんが、経済と環境の両方を追求するというコンセプトにとても共感しました。

日本国内でも、単一林に対する違和感や危機感を持っている地域は意外とあるようです。

特に、分収林が形骸化してしまった現状を多く抱える地域は敏感だと思います。

経済林として回していける森はまだしも、そうでない森に無理やり補助金という人工呼吸器をつけて延命するのは「多面的機能」という旗印であってもさすがに無理があるのではと多くの人が気づいているはずです。

more treesが協定を結ぶいくつかの地域とも、すでに針葉樹一辺倒からの見直しについて議論を始めています。そして北海道や四国、九州など各地で既に共感していただいている町村も出始めています。

たとえば北海道において再造林の時にカラマツを植えつつ、その後自生してきた広葉樹(タモやナラ)は「雑木」として刈るのではなく育てておく。もしくはその土地に適していると思われる有用広葉樹を植える、なども一つの手法かもしれません。

more treesでは、日本ではこれまで間伐を中心に推進してきましたが、今後長いスパンで考えるとこうした多様な樹種を盛り込んだ森づくりも並行して進めていく必要があると感じています。

仮に針葉樹一辺倒の森からポートフォリオを組みなおしたとして、その結果が出るのは早くて50年後です。行政としては、これまで取り組んできた手法から脱却するのは前例がないし躊躇するかもしれませんが、開き直っても大丈夫だと思います。なぜならもし大きな成果がでなかったとしても「責任者出てこ~い!」とはなりませんから。だってその頃にはとっくに退職してますw

少なくても将来、木材として扱える(収穫できる)種類が増えていた方が、次世代の林業にとっても選択肢が広がるし、スギ花粉も減るし、多様性も増すし、リスクヘッジになると思うんです。

まずは興味・関心のある全国の「more treesの森」の皆さん、一緒に森のポートフォリオを組んでみませんか!?

(人工林はスギだけでなくヒノキ、カラマツ、トドマツなどもありますが、今回は表現として代表的な「スギ」に集約しました。)

水谷伸吉

 

TOP